相続が発生して、遺産の中に借地上の建物がある場合、相続人にとって悩ましい問題が発生することがあります。築年数が浅く利用価値のある建物であればよいのですが、築何十年の木造家屋だったりすると、耐震性がなく、相続人の方が住むのは困難です。かと言って、建て替える費用もないということになると、相続人の選択肢としては、建物を第三者に譲渡することを検討する必要があります。
借地上建物の譲渡とは
借地上の建物を第三者に譲渡する際には、「従たる権利」として、借地権と一括で譲渡することになります。「従物は、主物の処分に従う。」(民法87条2項)との定めにより、従物は主物と法律的運命を共にしなければならず、主物である建物が処分された場合は「従たる権利」である借地権も建物と一緒に移転するのです。
借地権は非常に強い権利です。特に旧借地法の適用があるケースでは、地代を払い続ける限りほぼ永久に使用できる権利で、所有権に近い強さを持っています。そのため、第三者への譲渡には慎重な手続きが求められるのです。
地主の承諾と承諾料の問題
借地上の建物と借地権を譲渡するには、地主の承諾が必要です(民法612条1項)。通常は、承諾料を地主に支払うことになります。
私が過去に扱った東京23区内の借地関係の事件を例に挙げると、借地権価格は借地の更地価格の70%の金額、借地権譲渡の承諾料は借地権価格の10%となりました。借地権割合は、路線価図で確認することができます(財産評価基準書|国税庁)。一般的に、地価の高い地域ほど借地権割合は高くなる傾向があります。東京の商業地では80%~90%、住宅地では60%~70%の割合ぐらいです。
ただし、この割合はあくまで目安であり、地域によって大きく異なります。特に地方では市場価値が付きにくいケースもあり、解決方法も都市部とは違ってきます。地方の場合は、第三者への譲渡よりも地主に借地権を返還するという選択肢を検討せざるを得ないケースも少なくありません。
承諾料以外の財産的給付
借地権譲渡の承諾料の問題だけであれば、地主との話し合いは比較的容易かもしれません。しかし、実際には、借地権譲渡の承諾料以外にも、以下の点で、地主に支払うお金が問題になるケースがあります。
1.条件変更の承諾料 借地契約の条件を非堅固建物から堅固建物に変更する承諾料
2.建替え承諾料 新建物の構造や床面積、収益性によって変わります。
3.地代の変更 建替えを機に、地代の値上げを求められることがあります。
4.更新料の設定、変更 建替えを機に、更新料の設定や値上げを求められることがあります。
ざっと考えても、上記の財産的給付の問題があります。借地関係では、基本的に借地人の地位が強いのですが、それが借地上建物の譲渡の場面では立場が逆転します。地主が不当な金額を要求してくる場合には、やはり経験のある弁護士に交渉を依頼した方がいいでしょう。
実務上、地主がどこに重点を置いているかによって交渉の方向性が変わってきます。例えば「承諾料はいいけれども、建替え承諾料は絶対に譲れない」というケースもあれば、逆に「建替え承諾料にはこだわらないが、地代の値上げは必須」というケースもあります。このような複雑な交渉は、まさに駆け引きの要素が強く、専門家の知識と経験が重要になってきます。
地主への買取依頼という選択肢
借地上建物を第三者に譲渡するのが困難ということになると、別の方法としては、地主に借地権を買い取ってもらうという選択肢もあります。地主にとって、特に旧借地法の借地権が設定されている土地は、地代を上げること自体が簡単でないため、経済的には非常に負担になっていることが少なくありません。
特に都心部では、古くからの借地契約の場合、地代が非常に安いままで据え置かれていることがあります。土地の価格が何倍にも上昇しているのに、地代は当初の金額からほとんど上げられないという状況も珍しくありません。賃貸借契約であれば値上げ交渉も可能ですが、借地権の場合はそれが非常に難しいのです。
このような状況では、借地が戻ってくれば、地主にとっても更地で売却したり、新たな建物を建てることが可能となるため、有利な取引になることがあります。ただし、地主への買取依頼は、第三者への譲渡と比べると金銭的には不利になることが多いため、他に選択肢がない場合の最終手段と考えるべきでしょう。
なお、地主に返還する場合でも、何らかの対価を得られないか交渉する余地はあります。ただし、これもケースバイケースであり、地主がどれだけ土地を必要としているかによって交渉の余地が変わってきます。また、相続人の側でも更地に戻す費用を負担しなければならない点も考慮する必要があります。
第三者への譲渡の資金の流れ
借地上建物を第三者に譲渡する場合、法的には借地人(相続人)が地主から承諾を得る必要がありますが、実際の承諾料等の負担は最終的には譲受人(第三者)が負うことになります。売買金額から控除する形で処理されるのが一般的です。
なお、借地権の専門業者が譲受人となるケースも多く、彼らは借地権を取得して再開発し、別の第三者に譲渡するビジネスを展開しています。このような専門業者は、複雑な借地権取引の知識と経験を持っていますが、相続人の側は素人であることが多いため、専門家のサポートなしでは不利な条件での取引に応じてしまう恐れがあります。
地主に無断で借地上建物を譲渡すると大変なことに
地主の承諾を得ないまま、借地上建物を譲渡すると、これは、借地権の無断譲渡となり、地主は、借地契約を解除することができます(民法612条2項)。借地人は、更地にして土地を地主に返さなければならなくなるし、もちろん、承諾料その他の財産的給付も、基本的にはもらえません。
「譲渡当時、地主から拒否されるとは予見できなかった」という言い訳は通用しません。借地上建物の譲渡が行われた後に、借地人が譲渡承諾を求める申し立てをしたケースにおいて、大阪高等裁判所令和6年6月6日判決は、「借地借家法19条の『譲渡しようとする場合』という同条1項の文言のみならず、借地権設定者が借地権の譲渡を承諾しない場合であっても、譲渡が借地権設定者に不利益をもたらすおそれがないときは、裁判所の許可によって譲渡を適法なものとすることにより、賃借権の無断譲渡による紛争を予防するという同条の趣旨に照らしても、賃借権譲渡許可の申立てが建物を譲渡した後にされたものである場合には当該申立ては不適法であると解すべきである。そして、本件申立ては、本件建物の売買を原因とする所有権移転登記の後にされたというのであるから、本件建物を譲渡した後にされたものであり、不適法であるといわざるを得ない。」と述べて、借地人側の主張をあっさり棄却しました。
借地上建物の譲渡は、相続財産としては悩ましい問題ですが、自己判断で進めると取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。専門家のサポートを受けながら、適切な手続きで譲渡を進めることをお勧めします。
