概要


近年、マンション管理をめぐる法的責任の範囲が大きく変化しています。特に注目すべき事例として、神奈川県逗子市で発生したマンション擁壁崩落事故に関する判決があります。
 令和2年2月、神奈川県逗子市内のマンションの敷地内にある斜面が崩落し、斜面の下の歩道を歩いていた女子高生(18歳)が亡くなるという痛ましい事故が発生しました。

 女子高生の遺族は、マンションの管理会社等に対して損害賠償を求めていたところ、横浜地方裁判所は、令和5年12月15日、被告らに約1億円の賠償責任(弁護士費用、確定遅延損害金を含む。)を認め、和解金を控除した残額である約107万円を遺族に支払うよう命じる判決を下しました(令和3年(ワ)第424号 横浜地方裁判所令和5年12月15日判決)。

具体的事実


 本件で特に重要といえるのは、事故発生の数日前から斜面に亀裂が確認されていた点です。管理人がこの亀裂を認識していたにもかかわらず、適切な報告や対応がなされなかったという事実が判明しています。この事前の亀裂の存在は、後の裁判において予見可能性を判断する上で重要な要素となりました。

争点~管理会社の責任の範囲が広く認められたのはなぜか?

 本件の裁判では、損害賠償請求における予見可能性の程度が主要な争点となりました同判決は、「被告らは、予見可能性の認識の対象として、本件斜面地の崩落事故が落石防止柵で防止できない程度の大規模であること、発見から約22時間後の短時間で発生すること、通行人の生命を奪う程度の重大な損害が生じることが必要である旨の主張をする。」「しかし、不法行為として過失責任を問うために必要な予見可能性の認識の対象としては、他人に権利侵害が発生する具体的おそれの認識で足りるというべきであり、それ以上の具体的な認識までは不要であると解される。」「本件の場合、一般的に亀裂が崩落の前兆と理解されていること、落石防止柵の存在を認識しているHが、令和2年2月15日まで猶予があるか判断しかねると回答していることを踏まえると、本件斜面地が崩落する具体的おそれは認識可能であると認められる。」などと述べ、予見可能性を認めました。

 裁判所は、具体的な崩落時期や日時までの予見は必要ないとし、抽象的な予見可能性で十分であるという判断を示しました。つまり、漠然とした危険性の認識があれば、管理者側は責任を負うべきとされたのです。被告側は具体的な崩落の時期や日時の予見は不可能だったと主張しましたが、この主張は認められませんでした。

今後の管理会社・管理組合として気をつけるべきことは災害における適切な予防策

集中豪雨が多発する近年の気象状況において、都心のマンションにおいても、同様の事案が発生する可能性は低くありません。土砂災害対策を講じる責任の所在に言及した判決であり、注目に値します。

特に注目すべきは、マンション管理における責任の範囲について、当事者が従来考えてきた以上に広いという点です。

これまでは主に居住者への責任が中心と考えられてきましたが、近隣住民や通行人に対する責任も明確に含まれることが示されました。この判断は、管理組合や管理会社に対してより高度な注意義務を求めるものと言えます。

さらに、近年の気象状況の変化により、従来想定していなかったリスクへの対応も必要となってきています。管理責任の概念がより広く、より厳格に解釈される傾向にある中、管理会社や管理組合は以下のような対応を取ることが求められます。

・より広範な安全配慮義務の認識

・軽微な異常でも見逃さない体制作り

・予防的な補修・メンテナンス体制の構築

・近隣住民や通行人も含めた安全管理の視点の導入

重要なことは、定期的な点検義務の重要性が増していることです。軽微と思われる異常であっても、適切な報告と対応が必要となります。
 もっとも、このような適切な予防的な対応は、結果として大きな事故や紛争を防ぐことにつながりますので、管理会社・管理組合としては十分な対策を講じる必要があるといえるでしょう。