1 はじめに

近年、SNS(X、Instagram、LINEなど)を通じて接触し、親密な関係を装って金銭を振り込ませる、いわゆる「ロマンス詐欺」や「投資詐欺」が急増しています。こうした詐欺被害にあった際、多くの方がまず思い浮かべるのが、いわゆる振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)による救済です。

しかし、被害回復を確実に図るには、この救済法だけに依存するのではなく、民事保全(仮差押)および本訴(損害賠償請求訴訟)を含む法的対応が不可欠です。以下、実務上のポイントを解説します。

2 振り込め詐欺救済法による口座凍結は“入口”にすぎない

振り込め詐欺救済法に基づいて、振込先の金融機関が被害届を受けた後に対象口座を凍結し、預金保険機構が公告を出すという流れは、詐欺被害者には一定の救済手段を提供しています。しかし、これはあくまでも複数被害者への配当を前提とした制度であり、個々の被害者の権利や回収額を直接保証するものではありません。公告後、一定期間が経過した後に金融機関からの返金手続が進められますが、実際に返還されるのは、凍結時点で残っていた資金の範囲内に限られ、かつ被害者間で分配される形になります。そのため、被害額の全額が回収できるとは限らないのが実情です。

3 仮差押は「自分の債権」を保全するために不可欠

被害者が「自分の被害額を個別に回収したい」と考えるのであれば、裁判所を通じた仮差押えの申立てが必要です。これは、振込先口座の残高が他の被害者によって引き出されてしまうのを防ぎ、将来の訴訟に備えて資金を確保するための重要な手続です。仮差押は、被害者にとって「この口座のお金を私のために残しておいてください」と、裁判所を通じて明示的に主張する手段です。実務では、仮差押命令の取得には「被害事実の立証資料(送金履歴、やりとりの記録など)」と一定額の担保金が必要です。

4 最終的には損害賠償請求訴訟(本訴)による確定が必要

仮差押はあくまで「仮の処分」にすぎず、実際にお金を差押えて回収するためには、本訴で勝訴判決を得る必要があります。本訴とは、加害者に対する損害賠償請求訴訟であり、ここで裁判所が被害額を認定して初めて、仮差押えした資金に対する本格的な回収(強制執行)が可能になります。また、仮差押命令を得たあとに訴訟を提起しないままでいると、仮差押の効力が失効するおそれもあるため、速やかな訴訟提起が求められます。